1.はじめに
近頃、日本シリーズで巨人がソフトバンクに1勝もできず4連敗で終わったことを契機として、セリーグにDH制を導入することについて議論が起こっている。
つまり、DH制がある分だけ、以下の理由によりパリーグの方が強くなりやすいという主張が根底にあるようだ。
- DHがあると、9人目の野手(しかも打てる選手)が必要になる。普段セリーグは9人目の野手まで用意する必要がないから、DHありになると戦力差が生まれる。
- ピッチャーが打席に立たなくて良いから、投球の練習に集中できる。
- ピッチャーの打席を考えずに、継投を考えられるから、ピッチャーが成長しやすい。
確かに、これらの点によりパリーグの方が強くなりやすいというのは正しい。実際、交流戦の対戦成績を見てみると、2009年を除いてパリーグが勝ち越している。つまり、2005年からの15シーズンでわずか1回しかセリーグが勝ち越していないのである。
しかし立ち止まって考えれば、リーグ間で制度が違えば、何かしらの格差が生じるのは自明のことであり、そもそもパリーグが1975年にDH制を導入した時から、いずれこうなることは決まっていたとも言える。
そして今、セリーグにDH制を導入されれば、セパが同じ条件で戦うことになるので、格差は解消されるだろう(時間はかかるかもしれないが)。
しかし、ことはそれほど単純なのだろうか?
2.格差の拡大
当たり前だが、現在DH制の無いセリーグのチームは、DH制が導入されれば9人目の野手を補強する必要がある。
私のような戦力の薄いチーム(オリックス)を応援している立場からみるとよく分かるのだが、打てる野手9人を並べるのは非常に難しい。ただドラフトで選手を指名して、自前で打てる野手9人を並べることは、不可能にすら思えるレベルだ。(オリックスからすると、DH制が無い方が用意する野手が8人で済むので、他球団との差は縮まるだろう。)
DH制の下で、徹底的に補強・育成を行い、チームの選手層をとことん厚くした結果、12球団最強になったのがソフトバンクである。私はソフトバンクという球団の方針や理念は素晴らしいと思うし、実際その気持ちは尊敬の部類にまで入るが、現状は1球団だけ抜きん出てしまっていて、バランスブレーカーになっている。
これは勿論、悪い意味で言っているのではない。これまでDH制が問題になっていなかったのは、ここまで圧倒的なチームはこれまでに無かったということを言いたいだけである。
近年のパリーグでは、楽天も大規模な補強を繰り返し、ロッテもそれに追随する流れにある。オリックスは育成選手を大量に指名するなど、育成に舵を切っている。育成出身の一軍レギュラークラスの選手も出ているし、設備更新や海外派遣も非常に盛んである。西部と日本ハムはスカウティングと育成に注力している。
仮にセリーグにDH制が導入されたとき、今まで以上に戦力補強の必要性が高まり、おそらく巨人・阪神という2チームが大規模な補強を行うことになる。その流れに対して、セリーグの一部の球団が反対するのは、至極当然なことのように思う。
しかし、DH制があった方が野球は面白い。無気力な投手の打席を見ないでいいし、多様な選手を見ることができる。セリーグにDH制が導入されないのはある種消極的な選択だと思うが、一方で上述の通りそれに対する理解もできる。
以下では、様々な角度から、セパ間の格差をなくす方法を考えていきたい。
3.私の考え① セリーグがパリーグに勝つためには、DH制を導入せずとも方法がある。投手が打てるようになればよい
例えば、投手がOPS .600くらい打てるようになれば、本拠地では非常に有利に戦うことができるのでは無いだろうか。これは非常に難しいことではあるが、普段投手が打撃練習をしないパリーグに差をつけられる部分ではある。
投手の負担はその分増すことになるが、逆に捉えれば、打撃能力を高めれば、ピッチングの能力だけでなくバッティングの能力も買われてローテーション入りということもありえる。
しかし一方で、このアイディアは常に有効とは限らない。
・パリーグの本拠地(DH制あり)では相変わらず勝てない。とすると、日本シリーズの勝ち負けは本拠地での試合数の多さで決まるのだろうか?
・パリーグの投手が打撃練習に本格的に取り組めば、差は無くなってしまう。ただし、実際にはこの選択はできないと思う。何故ならば、パリーグで勝ち上がるためには、打撃練習は全く必要なく、その分投球練習をすべきだからである。
4.私の考え② 日本シリーズはDHなしにしたら?
日本一を決めるためにセリーグとパリーグがぶつかる舞台で、そもそもの制度差により選手層の格差が生じているというのは、不公平だと思わないだろうか?私は思う。
要は、セリーグからすれば、日本シリーズでは本来必要のない9人目の野手を整えた上でパリーグに勝たないといけないのだ。わざわざ相手の有利な土俵に合わせて戦わなければいけないのである。一方で、パリーグがDHなしで戦うことは、普段DHで出場している選手が使えないが、別にだからと言って不利にはなっていない。
それならば、日本シリーズは完全にDH無しにしてしまって、常に対等な勝負にしたらどうか?パリーグのチームからすると、普段DHで起用している選手がスタメンで使えないので不満は残りはするものの、公平な勝負になるではないか。
つまりは、セパの対戦成績の格差を無くしたいということであれば、セパが対戦するときはDHなしで統一してしまえばいいのだ。それが筋である。(交流戦は、レギュラーシーズンの成績になり、リーグ内の順位にのみ影響するものなので本来はどちらでもいいと思うが、優勝チームに対する賞金等を考えると、同様にDHなしに統一した方が望ましい。)
5.私の考え③ 年俸制限やぜいたく税をかけるのはどうか?
チームの年俸総額に制限やぜいたく税をかけることで、パリーグとセリーグの格差を無くすような方策が取れないだろうか?つまり、どのチームも同じ資金力ならば、どこにお金を配分するかの問題であって、格差は生じないのではないか?というアイディアだ。
つまり、セリーグのチームは、DHを打つ9人目の野手まで含めて選手を用意する必要がないから、その他の選手(投手等)を補強できる。パリーグのチームは、野手9人のスタメンを揃える分、他の選手に費やせる予算が減る。
こうなれば、格差は生じにくいのではないかと思う。ただし、何らかの事情で低コストでDH分の選手が起用できた場合は、格差は生じてしまう。
6.私の考え④ DH制だけになることは断固反対
結局DH制を導入するかどうかはセリーグの問題であるから、オリックスファンである私からすれば「好きにすれば?」というスタンスである。繰り返しになるが、パリーグが1975年にDH制を導入した時から、いずれこうなる可能性があることは分かっていたではないかと思う。
ただし、日本におけるプロ野球がDH制のみになることは断固反対である。シーズンがつまらなくなると思っている。
というのは、守れる選手の価値や、打撃能力の高い投手の価値が低くなってしまうからである。よりはっきり述べると、DH制が無い試合では、守れない選手は出場できないわけなので、
守備につけて打てる選手 > 守れない打てる選手
という図式が簡単に成り立ち、選手間の価値に差をつけることができる。そして私は、この差は絶対に必要だと思う。
ということで、セリーグがDHを導入したとしても、例えば交流戦はDH無しにするとか、一定数(20〜30試合程度?)は、DHなしの試合を行って欲しい。
7.最後に
私の予想では、セリーグの一部の球団はコストの観点からDH制の導入を否定するのではないかと思う。
そうなった時にどうするのか?ということを、DH制の導入を進めたいセリーグのチームは考えておかなければいけない。私の考え①〜③のようなアイディアが考えられるが、単純に日本シリーズの分の悪さを解消するためであれば、特に②は手っ取り早いのではないか?
あるいは、DH制を望む球団と望まない球団でリーグを再編してもいいではないか、とも思う。綺麗に6-6になる保証は全くないが・・・。
次回は、FAやドラフトのあり方に関する記事を投稿したいと思う。
「セリーグへのDH制の導入の是非について(2019年11月16日)」への20件のフィードバック