大学入試における英語民間試験導入の延期について(2019年11月3日)

普段はオリックス(野球)のことばかり書いている本ブログであるが、今日は大学入試に関する最近のビッグニュースを取り上げたいと思う。

何となく私のキャラクターを知ってくれている方ならお察しのとおり、私のオリックスに関するテンションはだだ下がりである。主にドラフトからそんな感じで、FA非参戦のニュースが出た時点で「えぇ~、来季どうすんの・・・。」状態である。他所のチームは頑張って補強しているのに、最下位がこれでいいのだろうか、甚だ疑問である。

そんなわけで、今日は文化の日でもあるし、大学入試における英語4技能評価について考えてみたいと思う。

1.まず;大学入学共通テストと英語民間試験の導入について

2021年度入試(2021年の4月に入学する試験)から、現行のセンター試験から大学入学共通テストというのが導入される。何が変わるのかを、主にwikipediaで調べた範囲で説明したい。


センター試験と言えば、マークシートに回答するというイメージだが、大学入学共通テストでは国語と数学で記述式の問題が導入されるらしい。(そして、その採点を誰がやるのかが問題になっているらしい。)


英語において4技能(読む、聞く、話す、書く)を測るために民間試験(英検など7試験を利用)を受験させるらしい。共通テストでも「読む、聞く」は出題されるが、「話す、書く」は民間試験でのスコアに評価が委ねられる。

各大学の選抜においては、共通テスト(読む、聞く)だけを英語の評価として利用する方法が単純に思いつくが、文科省は民間英語試験のスコアを活用することを求めていたらしい。そして、どのように民間試験のスコアが各大学に提供されるかというと、国の「大学入試英語成績提供システム」を使うことになっていたらしい。

11月1日の文科省大臣の会見(そして大きなニュースになった)は、②の「大学入試英語成績提供システム」に関する延期の発表だった。つまりは民間試験スコアの提供が国から各大学に対して行われないことから、事実上の英語民間試験の利用の断念である。

2.延期の経緯

英語民間試験の活用については、全国高校長協会が延期を要請するなど、かねてから大きな批判があったようである。延期を求める理由は以下のようなものらしい。

①この時期になっても、試験をいつどこで受けることができるのか不透明。

→高校3年生の4月から受検したスコアを有効にできるらしいので、確かに高校2年生の11月になってもその状態では不安だろう。都市圏ならば良いものの、僻地ならば経済的・時間的・肉体的負担も把握しておきたいだろう。

②試験をたくさん練習で受検できる都市部や裕福な家庭の高校生が有利ではないか。

→「大学入試英語成績提供システム」に登録できるスコアは受験時に自分が決めたもので、最大2回までなので、「たくさん受けた中でよかったスコアだけを登録する。」という制度ではないようだ。ただし、たくさん練習のために受検できる方が有利になるのは疑いようがない。

③そもそも民間試験の公平性、試験間の平等性に不安が残る。

民間試験だから、例えば採点に偏りやミスが発生してしまうこともあるのではないか。その時に責任はだれが取るのか。また、どの試験を利用するかで有利不利が発生しないか。各試験のスコアの換算方法はどうなっているのか。

④大学側が活用方法を明らかにしていない。

→上記のような状態であるからこそ、大学側もどのように活用するのか決めきれていない場合があるようだ。そんな中で受験生が準備することは確かにできないだろう。

⑤障害のある受験者への配慮が試験実施団体ごとにまちまちである。

→たとえば聴覚障害のある受験生がいたとして、リスニングは完全にゼロ点扱いになるのだろうか。それともそれ以外の技能(主に読む、書く)のスコアを外挿する形にするのか。その扱いがバラバラらしい。

以上の詳細は、全国高等学校長協会のHPから参照することができる。
http://www.zen-koh-choh.jp/iken/iken2019.html

3.私の考え;延期に賛成する理由

  • 延期には大賛成。50万人程度が受けることになる英語テストの受検にあたって、ここまで不満が出るのが何よりの根拠。

  • そもそも4技能を入試で測るということ自体も懐疑的に思う。もちろん理念は良い。しかし、入試には公平性・客観性が欠かせない中で、speakingテストにおいてそれらの担保は不可能に思える。つまり、理想を言えば普通の試験がそうであるように、全員が一斉に同じ問題を解くことが大事である。言うまでもなく、speakingにおいてそれは不可能ではないだろうか。英語版の聖徳太子が1万人いようが10万人いようが無理だろう。仮に50万人が一斉に音声を吹き込み、後からまとめて採点することにしても、それを採点するのは膨大な人数であり、しかもそれぞれの主観的要素が含まれるのではないか。ただでさえ、大学の採点ミスや出題ミスなどが取りざたされていることを忘れてはならない。

  • また、そもそもspeakingを教えることのできる英語教師は日本全国にどれだけいるのか?もちろん推測になるが、満足にspeakingができる英語教師がちゃんと各高校にいるか?という問いには「No」と答えるのが正解に近いだろう。めちゃくちゃな発音で喋る教師もいるだろう。となると、ネイティブを雇うことのできる高校(つまりそれに見合う授業料を納めている受験生)、すなわち私立高校の出身者が有利にならないだろうか。

  • speakingを上達させる一番の早道は、幼少期からネイティブと1対1で話すことだ。そうなると、首都圏の留学生を家庭教師で雇えるような裕福な家庭がさらに有利にならないか。これは格差の拡大と言い換えても良い。

  • そもそも民間試験を利用する時点で、疑問符がつく。仮にその試験実施団体の会長の息子が受験生で高得点を取ったとして、問題の事前流出や採点における細工が無かったと誰が公的に約束してくれるのだろうか?また、仮に問題が流出してしまったとして、それは誰が責任を取るのだろうか?

4.私の考え;こういうテストにしたら良いのでは?

素朴に「こういうのがいいんじゃない?」という私案を述べたい。

  • 民間試験は利用しない。民間の時点でナンセンス。

  • まず10年間かけて英語教育を改革する。そのために初めに英語科の教師たちに英語4技能を課す。つまり、英語科の教員免許の取得および更新において、英語4技能テストで一定スコアを取ることを要件とする。特にspeakingにおいて基準点を設け、speakingをある程度の質で学校で教えることができるようにする。

  • 共通テストにおける英語では、英語4技能は測定しない。話すことを正面から評価することは諦める。したがって、完全にマーク式のペーパーテストにする。実際問題、50万人のspeakingやwritingを公平に測定するのは不可能である。具体的に各技能をどのように測るかを続いて述べる。
  • reading:従来どおり、読解や文法問題でOK。

  • listening:従来どおりでOK。

  • writing:書いてある日本文に対応するもっとも適切な言い方の英文を選ぶ。その際、正解を段階的に設定する。パーフェクトな表現、不適切な部分もあるが伝わらなくはない表現、不適切だったり内容が違う表現、の3つを選択肢に用意する。たとえば、それぞれ1個、1個、3個で全5個の選択肢を作る。

  • speaking:アクセント、発音問題。

私の考えの根底にあるのは、speakingやwritingを真っ向から評価しようとすればするほど、ネイティブと過ごした時間が重要になり、経済的格差・居住地格差がそのまま反映されることになるが、それは宜しくないということだ。したがって、ペーパーテストを工夫して公平な受験制度を実現すべきだと考える。

5.この問題のジレンマと本質;格差を是認してでも英語ができる人材を増やすか。あるいは、みんな公平に似たようなレベルになるか。

100人の大人を集めた時に、まともなspeakingができる人間が10人いるのと、1人しかいないのとでは、もちろん前者の方が良い。そして、言語として英語をspeakingができるレベルで使える人を増やすために、大学受験でspeakingを課すのは非常に有効に思える。

しかし、「公平性」や「教育格差」や「機会の均等」という理屈に直面したとき、その導入までのハードルが非常に高く実現できなかった、というのが今回の問題の本質ではないだろうか。一人一人の若者の受験の公平性を考えて全体幸福を最大化しようとすると今回の延期判断は英断ということになるし、私も実際その方向で賛成だが、国家全体としての競争力を高めるためには一部でも英語が真にできる人材が多い方が良いのではないか?

一方で、さらに深く考えれば、グローバル化が叫ばれて久しい世の中とはいえ、全員が英語を使うようになるわけでもないし、全員にspeakingを課すことは真に必要だろうか?という観点もある。必要だとしても、大学以上の教育で身に付ければいいのではないだろうか?

6.文科省への提言

何を目標にするかで異なるが、考えられるケースに対して提言をしたい。

ケース1:高校生全員に大学受験でspeakingを課したいならば。

ネイティブ教師1名を高校生50人あたりに高校に派遣するなど、学校でspeakingを十分に教えるようにすべきだ。まずは十分な教育の提供義務を果たしてから入試に導入するのが当然だろう。また、普通の日本人の英語教師であっても、英語4技能スコア基準を満たすことを条件とする。

そして、共通テストでspeakingを測るようにする。その際に民間テストを利用するのではなく、自前のテストを実施せよ。私には良い実施方法は思いつかないが、それを考えて実現せよ。

ケース2:大学卒業までに英語4技能が身に着けばいいと思うならば。

大学での単位基準において、英語の要件を増やしたり留学を必須にしたり、できることはある。卒業要件のひとつに設定してもいい。たとえば、「民間試験で一定の基準をクリアできなかったら、大学において英会話の授業を所定単位取るようにする。」という決まりを作るだけでも大きな効果があると思う。

あるいは、これらの基準を満たした学部・学科を何か認定するとか、そういう働きかけも可能だろう。

 


しかし、この一連の問題でどれだけの人的コストや混乱が発生したのだろうか。印象としては、理想論を無理に掲げて、無理やりに実現することだけを考えてしまったという印象だ。私も理想論は好きだが、日本列島には1億2千万人強が住んでいることを忘れてはいけない。

高校内の改革とか、大学内の改革とか、そういうレベルではないのだ。こういう無能なことを省庁がしてしまうと、やっぱり日本イマイチだな、と思ってしまう。

また、萩生田大臣は「身の丈」発言で批判されており、今回の件でも多くの批判があるようだが、今年の9月に大臣に就任したばかりということを忘れてはならない。後世から見たら、英断をした人物ということになるのではないだろうか。(素人意見だが)

 

大学入試における英語民間試験導入の延期について(2019年11月3日)」への23件のフィードバック

  1. 管理人さんお疲れ様です。
    英語テストについては、昔から、日本人が英語をできない原因は大学入試のシステムとそれに向けた教育にあり、
    本当の英語力が問われるTOEIC等の民間試験で英語力を見るようにしないといつまでたっても英語は身につかない!
    という論調はあった気がします。

    ただ、現実に民間試験をテストに用いるにはご指摘の問題点がありすぎた、というところでしょうか・・・。
    本来であれば、理想論を唱える政治家や第三者(大学教授とか)に対して、ロジック、ファクトに基づいた現実論を省庁が提示(ときに「抵抗」呼ばわりされますが、ロジック、ファクトに基づくことは大切です。)して、現実の政策に落とし込むところなのでしょうか。
    そのあたり、どのようなプロセスで意思決定されたのかわかりませんが、残念なニュースでしたね。

    さて、オリックスのドラフトを見ていても、たくさん高卒を取ったけど、どういうビジョン、ロジックで獲得したのか、プロセスが気になるところです・・・。
    もちろん、最近スカウトがうまくいっているので、指名された選手には結果を出してくれると信じていますが。

    気になるのは、
    ○1位に右腕と比べて育成リスクが高い高卒左腕をもってきたこと(もちろん宮城投手は人柄もよいし、めちゃくちゃ期待はしています・・ハズレハズレなんでこの指名はやむを得ない面はありますが。)

    ○2位以下にも高卒を並べたこと
    →今年のOPSの上位を見ても、高卒と大卒で高卒のほうが大きく育つ、とは決して言えないと思います。むしろ規定未到達の柳田選手も含めて、打者は大卒のほうがむしろ結果を出しているとも言えます。
    大学社会人卒を取らないのは正解だと思いますが…。

    育成チームに方針を切り替えるから、高卒で選手をたくさん取ろう、
    というのでは、物事の本質を理解しないまま、形だけ真似ているのではと思えてきます・・・。
    まあスカウトはしっかり見ていると思うし、まさかそんなことはないと思いますが。

    もちろん、素人の私よりたくさんの情報を持っているチームやGMの判断なので、1年後、2年後に花開くことを信じて応援したいところです。
    (太田はほんとうによく指名してくれたと思います!)

    私が根本的なチーム低迷の原因として考えているのは、ドラフト上位の野手で、守備重視の3拍子タイプの選手ばかり取ってきたことだと思います。
    打撃成績上位の選手は、打撃に特に特化していて(ファーストや外野の選手)、ドラフトで上位指名された選手(吉田正もそうですよね)が多いと思うのですが、
    オリックスは基本的に上位でショートとキャッチャーばかり取ってきた結果、打てる選手がいなくなったのではないでしょうか。
    このあたりの検証(岡崎選手をドラ3でなぜ指名したのかも含め)がされての今年のドラフトならよいのですが。

    もちろん、打撃力優先で指名された、頓宮選手、紅林選手の打撃力には大いに期待したいところです。

    長文失礼しました。
    またテンションが上がってきたら、オリックスの記事を書いていただけることをお待ちしております。

    1. ピジョンさん、コメントありがとうございました。
      おっしゃる通り、理想論に対する牽制が働かなかったのは、文科省の反省点になるでしょうね。
      何か理想や望みがあるからこそ、人間というのは変えたがるものなのでしょうね。

      ドラフト、私も指名した選手は非常に楽しみです。
      ご指摘の通り、上位で投手ばかり指名したり、打てる野手を指名してこなかったことが低迷の原因に
      他ならないと思いますので、少なくともここ2年はそういった傾向が解消されていて、期待が持てます。

      しかし、来年の捕手はどうするのだろう?ということを考えると、どうしても暗くなってしまいます。
      頓宮は期待はしていますが、計算は立たないですし、逆に若月は計算は立ちますが、打つ方の期待はできません。

      最近は海外派遣も盛んになり、育成選手も大量に指名しましたので、3軍制を含めた育成体制を実現していくのだと思います。
      これは大賛成ですし非常に楽しみなのですが、やはり来年や数年以内のことを考えると、有力捕手の指名は必須だったのではないかと思います。
      (チームは頓宮の活躍を信じているようなので、私もそこに期待するしかありませんが。。確かにフェニックスでの動きを試合中継で見た限りは問題なさそうでした。)

      オリックスの記事ではないのですが、DH制のセリーグへの導入に関する記事を書きました。
      今オフは動きも少ないので、とりあえず当面は野球全般に関する投稿が続きそうです。
      オリックスは外国人補強の話が出てきたら具体的に考えていこうかと思います。

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