左打者の方が、右打者より優位である
一塁により近いことを考えれば、左打者のほうが優位になるのは当たり前な話だ。具体的には、内野安打の確率、併殺打の確率、長打になる確率等について、統計をとれば、左打者のほうが絶対に優位であると思われる。
この記事で考えたいのは「どれだけ左打者が優位か?」という問題だ。
母数は多いほうが良いので、NPB全体で統計を取るべきと考えるが、個人でやるには限界があるので、オリックス(2018年シーズン;まだシーズン途中)だけで統計をとってみた。正直、オリックスという集団に対して統計をとっても、選手が非常に限定的であるので、「野球全体」に対する統計にも何にもならないが、比較してみたら面白かったので、この記事にまとめるものである。
1.データ比較
データは2018年8月16日終了(=107試合消化)時点のオリックスの全打者のデータである。(したがって、投手の打席は除いてある。)また、当ブログ独自にまとめているデータなので、申し訳ないが正確性は保証できない。
データ | 全体 | 左打者(全体に占める割合) | 右打者 | |
A | 打席数 | 4,011 | 1,454(36.3%) | 2,557 |
B | 打数 | 3,556 | 1,280(36.0%) | 2,276 |
C | OPS | 0.6637 | 0.7310 * | 0.6255 |
D | 出塁率 | 0.3040 | 0.3333 | 0.2871 |
E | 長打率 | 0.3597 | 0.3977 | 0.3383 |
F | 安打数 | 855 | 338(39.5%) | 517 |
G | ホームランを除く安打数 | 775 | 306(39.4%) | 469 |
H | 内野安打数 | 70 | 38(54.3%) | 32 |
I | ホームランを除く安打全体に対する内野安打の割合(=H/G) | 9.03% | 12.42% | 6.82% |
J | 内野安打を打つ確率(内野安打率)(=H/B) | 1.97% | 2.97% | 1.41% |
K | 併殺打機会数 ** | 561 | 227(40.5%) | 334 |
L | 併殺打数 | 69 | 21(30.4%) | 48 |
M | 併殺打率(=L/K) | 12.3% | 9.3% | 14.4% |
N | 二塁打、三塁打の合計 | 166 | 63(38.0%) | 103 |
O | ホームランを除く安打に対する二塁打、三塁打の割合(=N/G) | 21.42% | 20.59% | 21.96% |
データ | 全体 | 左打者(全体に占める割合) |
右打者 |
* 左打者のうち、約31%が吉田正の打席だったので、左打者の方が成績が良くなるのは当然。
** 併殺打機会を算出するにあたり、バントをした打席は除外している。
内野安打率について
データI:「ホームランを除く安打全体に対する内野安打の割合」の通り、ホームランを抜きにして同じ安打100本を打つにしても、左打者は内野安打で12本を稼げるのに対し、右打者は7本しか稼げない。
併殺打率について
データM:「併殺打率」の通り、併殺機会で、左打者は9.3%の確率でしか併殺打を打たないが、右打者は14.4%の確率で併殺打を打つ。ゲッツーになる確率が約1.5倍も異なるのは、改めて見ると大きな違いだ。
二塁打、三塁打の割合について
これは予想に反して、右打者のほうが高いという結果になった。しかし、ここまで来ると個々の打者の特徴が色濃く反映されてしまい、ろくに統計にならないということと思われる。おそらく、NPB全体で統計をとっても、打者の特徴に打ち消されてしまうと思う。
比較についての仮定
内野安打率や併殺打率を考えるときに、そもそもの打率や出塁率を考慮する必要がある。しかし、いろいろ考え出すと、三振の数、フライアウトとゴロアウトの比率、BABIPなどを考えなくてはいけないので、これらは完全に無視して以後の考察を進めることにする。
つまり、チーム内で平均を取れば、打率、出塁率、長打率などは内野安打率、併殺打率に影響しないと仮定する。
2.同じ能力だが、左右だけが違う時、どれだけ成績が異なるか?
同じ能力だが、右打ちか左打ちかだけが異なる打者を考える。分かりやすさのため、500打席ちょうど立ち、さらに四死球が全く無い場合の成績の違いを考える。そして、内野安打率、併殺打率を上記データの通りであると仮定する。
①内野安打の数
約7.8本異なる計算になる。したがって、打率は .0156異なる。OPSは .0312異なる。(四死球の分も考慮すれば、安打の数はさらにOPSの差を生むはずであり、この結果は下限値である。)
②併殺打の数
2018年オリックス打線の場合で考えると、打席全体の約14.0%が併殺打機会である。(バントをした打席は除外しない場合、約15.9%である。)また、より強打の打線であれば、より多くのランナーが出るので、併殺打を打つ機会は増えることになり、より影響が大きくなる。
併殺打を打つ機会のある打数は、約70打席ということになる。左打者の場合は併殺打を6.5本、右打者の場合は10.1本打つ。したがって、アウト約3.6個の差が生じる。
500打席でアウト3.6個が異なるということは、評価が難しいが、余分にアウトを取られたという意味で出塁数をマイナス3.6するとすると、OPS(というか出塁率)的には、.0072だけ補正することとなる。
ちなみに、全くバントしない打者だとすると、左打者の場合は併殺打を7.4本、右打者の場合は11.4本打つ計算になり、アウトが4.0個異なることになる。
③左右の違いがもたらす成績の差
以上、①、②を考え、左右の違いにより、OPS .0380程度の攻撃力の差を生むと思われる。(うち、成績上のOPSに反映されるのは .0310程度)
3.NPB全体における左打者の割合
本日2018年8月18日にNPBホームページに掲載のデータから、各チームの支配下登録選手(野手)の右・左打ちの人数を調べてみた結果が以下の通りである。
- 右、左、両打ちの比率は、54:42:4ということになるようだ。
- 左打者の方が多いチームはなかった。(西武と日本ハムにおいては同数)
- オリックスは圧倒的に右打者の方が多い。・・・編成ミスでは?
- 西武の野手の少なさは特徴的だ。ロッテも少ないが、シーズン中の出来事の結果でもある。
したがって、NPB全体では右打ちの方が遥かに多いということになる。
4.本考察からの提言(結論)
いくつか、導き出される結論を述べたい。
- 同じ能力なら、迷うことなく左打ちを優先すべきである。子どもにプロ野球選手を目指させるなら、そしてより良い成績を求めるのなら、左打ちを教えるべきだ。
- NPB全体で見て左打ちは右打ちよりも少なく、貴重である。良い左打者ほど大事にすべきである。
- いわゆる「左右病」で右打者を並べるのは非常にリスクが高い。一塁から遠いというある種のハンデを背負っている打者を並べるのはデメリットが大きいのは当たり前だ。よほど右打者に相性の悪い投手でもない限り、短絡的に右打者を並べてもいいことはない。別の言い方をすると、右打者を並べるときこそ、的確な根拠が必要である。
- 一般に、むしろ左打者を並べることのほうが理にかなっている。1試合(33打席程度)で1本の内野安打が期待できる。また、併殺打を打つ確率も右打者に比べて3分の2程度である。
- また、右打者の方が左打者よりも多いということは、「左殺し」よりも「右殺し」の方が、重要なのかもしれない。
- NPBにおける連続無併殺打記録は、現阪神監督である金本選手の1,002打席連続だ。1.5シーズンは併殺打を打たないというのは、ちょっと考えられない。本記事の仮定を当てはめると、1,002打席中、併殺打となる機会は約160打席だ(金本選手の記録中の犠打数はゼロである。)
左打者が併殺打を打つ確率(=9.3%)を考えると、160回の併殺機会に連続で併殺打を打たない可能性は、(1-0.093)^160 = 0.000000165 = 1.65 x 10^{-7} だ。つまり、単純な確率からすると606万回同じことを試せば達成できると期待される。要は、運だけでは達成できない記録だということだ。金本選手のこの記録はもっと崇められてよい。ただ、ゲッツー崩しに対する風当たりが強い昨今においては、最早達成されることはない記録かもしれない。
- ちなみに、NPBの通算記録のうち併殺打数BEST10は、右打者が独占している。というか、BEST40のうち左打者は、駒田徳広(11位タイ)、阿部慎之助(29位)、立浪和義(35位)、森晶彦(36位タイ)の4名だけである。
少年野球でも、いつの日か左バッターだらけになる日がやってくるかもしれない。
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ネットをさまよい、なぜか今この記事にたどり着きました。
面白いですね。他の記事も読ませていただきます!
コメントありがとうございます。
分析としては粗かったかもしれませんが、面白いと感じていただけて良かったです。
他の記事も読んでいただければとても嬉しく思います。
管理人