アストロズのサイン盗み報告書の全文和訳と個人的考察(2020年1月25日)

1月13日に報告書が公表されてからだいぶ時間が経ってしまったが、報告書(コミッショナー声明)の全文和訳を書いておこうと思う。

なぜわざわざ全訳をブログにするかというと、種々のニュースで本報告書の内容は取り上げられているものの、細かい部分まで含めた全容をそれらのニュースが伝えられているとは限らないと思ったことが発端だ。そして、まず自分で全文を読んで理解したうえで、せっかくなので自分なりの感想も書きつつ、全文和訳をまとめておけば今後誰かしら(※)の役に立つのではないかと思ったのだ。

※多分、レポートを書く大学生の役に立ったりするのだろうと思う。そのこと自体は非常に嬉しいことではあるが、訳が正しいとは残念ながら全く保証できないので、あくまで利用は自己責任ということでお願いしたい。

目次は以下の通りである。

1.声明(報告書)までの一連の流れ
2.コミッショナー声明(Statement of the Commissioner)の全文和訳
3.個人的考察

1.声明(報告書)までの一連の流れ

2019年11月12日、The Athleticが以下の記事を公表したのが発端である。
The Astros stole signs electronically in 2017 — part of a much broader issue for Major League Baseball

内容は、MLB全体に電子的なサイン盗みが蔓延していることに触れつつ、2017年にアストロズに所属していた4選手(個人名が出ているのはマイク・ファイアーズ投手のみ)が、アストロズが2017年に電子的なサイン盗みをしていたことを証言するものであった。

サイン盗みの方法や、サイン盗みに当時気づいた対戦相手の投手の証言なども含まれており、非常に内容に富んでいるので、意欲のある方は読んでみるといいだろう。

2.コミッショナー声明(Statement of the Commissioner)の全文和訳

直訳ではなく、なるべく自然な日本語になるように意識している。また、文中の「私(=I)」は、コミッショナーのことである。また、一言で言って長いので、流し読みでもわかるように、キーポイントは赤字にしておいた。


コミッショナー声明

2019年11月12日、Ken RosenthalとEvan DrellichによるThe Athleticの記事において、元ヒューストンアストロズの選手のマイク・ファイアーズが、2017年にアストロズがMLBのルールに反するようなサイン盗みを図っていたことを公に述べた。記事の主張内容は、試合参加者のルール遵守、スポーツマンシップの原則と公正な競争に関して、多くのファンや他のMLBのチームに深刻な懸念を抱かせるものであった。これまでにも述べてきたとおり、私は最大限の深刻さを持って本件を捉えており、調査部門に徹底的な調査を行うように命じた。ファンやチームたちに対して、何が起きたのかを明らかにすることが非常に重要であると私は考えており、この報告書はそのためのものである。まず、本調査ではアストロズのオーナーであるジム・クレインが、この報告書で述べられるような行為について認識していたことを示す証拠は一切見つからなかったことを述べておく。クレインは自らの組織の構成員による行為に、特段に悩まされまた困惑しており、私の調査に全面的に協力のうえ、求められたありとあらゆる情報を自由に入手できるようにしてくれた。

調査は、調査部門のBryan SeeleyとMoira Weinbergによって主導された。いずれも、野球運営の案件について、相当な調査経験を持つ者である。調査は2016年から現在までの期間を対象とした。調査部門は、現在または過去のアストロズの選手23人を含む68人の証言者から話を聞いた。また、調査部門は数万にも及ぶメールやスラックやテキストのやりとり、動画や写真を見返した。アストロズは、必要とした全ての電子的やりとりや証言者の手配に応じ、調査に全面的に協力してくれた。求めに応じて、あるアストロズの構成員たちは携帯電話を差し出し、画像に記録したり、検索をかけることを認めてくれた。私は、アストロズとその構成員に対し、本件に関する証拠を提出したり、いかなる申立を行う機会を認めた。

今、調査により分かった内容、そしてアストロズと特定個人たちに対する処罰を決めた根拠を説明するため、報告書を書く。

明らかになった事実

I.2017シーズンにおけるルール違反

2017シーズンの始め、アストロズの動画リプレイ再生室のスタッフが、2塁に走者を置いたときに使えるよう、対戦チームのサインの並び(すなわち、キャッチャーが出したサインの内どれが実際のものか)を解読して伝えることを試みて、センターカメラのライブ映像を利用し始めた。サインの並びが解読されると、リプレイ再生室にいる選手が「走者」の役割を演じてその情報をダグアウトに伝え、ダグアウト内のある人物がダグアウト内で知らせたり、サインの並びを(実際の)2塁走者に伝達し、その走者は捕手のサインを解読して2塁から打者に伝達していた。シーズンの早期には、アストロズのベンチコーチであるアレックス・コーラがサインに関する情報を得ることを目的として、リプレイ再生室に電話をかけ始めた。また、少なくとも幾度か、リプレイ再生室のスタッフがテキストメッセージによりサインの並びを送信して、ベンチにいるスタッフのスマートウォッチや、近くに置かれた携帯電話で受信したということもあった。

2017年シーズンが始まっておよそ2ヶ月した頃、カルロス・ベルトランを含む、とある選手のグループが対戦相手のサインを解析し打者に伝えることでチームを向上させられないかという話し合いを行った。コーラは、リプレイ再生室の技術者に手配させ、センターカメラの映像を瞬時に映せるモニターをダグアウト外に設置した。(センターカメラは、元は選手の向上目的で使われており、MLBルールでもその使用目的のときに使用を許可されていた。)そのモニターがどのように使われたのかについては、複数の証言者から概ね整合の取れた説明を受けた。1名以上の選手がセンターカメラのライブ映像を見てサインを解析した後、次の球種を打者に伝えるために近くのゴミ箱をバットで叩くことを行っていた、というものである。(証言者によれば、初めは手を叩いたり、口笛を吹いたり、叫んだりすることを試していたそうだが、最終的にゴミ箱を叩くのが良いということになったとのこと。)選手たちは時折、マッサージガン(訳注:電動マッサージ機の一種)を使ってゴミ箱を叩くこともあった。おおむね、1回もしくは2回叩かれれば特定のスピードを抜いた球で、叩かれなければ速球に対応していた。

証言者たちは一貫して、この新たな手法は選手主導であり、コーラという例外はあるものの、非選手のスタッフはリプレイ再生室のスタッフも含めて、関わっていなかったと述べている。ただ一方で、アストロズのダグアウトの近くにいた誰しもが、ゴミ箱叩きを聞いたり見たりしたはずであることを、証言者たちは名言している。ダグアウト近くに設置されたモニターで選手たちがサインを解析することに加えて、リプレイ再生室のスタッフが部屋内のモニターを使ってサインの並びを解析し、2塁にランナーが出た際のためにダグアウトにサインの並びを伝えることも継続していた。これらの手法によるサイン盗みは共に、2017年シーズン中並行して行われていた。

2017年8月、ボストン・レッドソックスが、リプレイ再生室から、スマートウォッチを身に着けた個々人へサインに関する情報を伝達していたことが明らかになった。このことは、並ならぬメディアからの関心を受け、私は2017年9月15日にプレスリリースを出し、レッドソックス(およびリプレイ再生室の電話の不適切利用のためニューヨーク・ヤンキース)に罰金を課すことを次のように公表した:

まず、対戦チームの捕手の出すサインを解析しようとすることは、いかなるMLBルールや規則に違反しないことを理解することが重要である。MLB規則は、ただし、電子機器を試合中に使用することを禁じ、「サインを盗むこと及びチームを利するために情報を伝達することに使用してはならない」と述べている。この明確な規則にも関わらず、技術の普及、特にリプレイ処理での技術の普及により、電子機器の適正使用と不正使用を監視することは一段と困難になってきている。それでも私の事務局による調査に基づき、2017シーズンの間ボストン・レッドソックスがリプレイ再生室からダグアウトの運動トレーナーに電子的に伝達を送ることにより、上述の規則に違反したという結論に達した。

このレッドソックスに関する調査結果を公表するプレスリリースの発行の後、私は同日に全チーム宛の文書を発行し、サイン盗み目的での電子機器使用に関するルールを再説明し、全てのチームに対して将来的な違反は私の事務局により極度に重大に扱われることを通告した。特に、文書において、GMと監督には今後のいかなるルール違反について責任が生じることを述べた。したがって、全てのチームは2017年9月15日時点で、サイン盗みのためのいかなる電子機器の使用は、私の事務局により更に深刻なものとして扱われることになると通告されていた。

レッドソックスの件を取り巻く風評や9月15日の全チーム宛の文書にも関わらず、アストロズはリプレイ再生室とダグアウト横のモニターの双方を、レギュラーシーズンの残りとポストシーズンを通してサイン盗みに使用し続けた。

II. 以後のシーズンでのルール違反

2017〜2018年のオフシーズンの間、GM会議での検討を受けて、コミッショナー事務局は、フィールド上でのプレーへのチャレンジを議論すること以外の目的では一切使用されていないことを確かめるため、リプレイ再生室とダグアウトをつなぐ電話を監視することを通知した。更に2018年3月には、ジョー・トーリ(訳注:コミッショナーズ事務局に所属)が全チームに向けて、サイン盗みのための電子機器使用の禁止について詳細に述べる文書を発行した。

MLB規則1−1は、全てのユニフォームを着る人間、チームスタッフ、機器スタッフが電話やいかなる種類の無線機、携帯電話、スマートウォッチ(アップルウォッチなど)、ノートPC、タブレットや他の伝達端末を含む類似の電子機器を、ダグアウト内もしくは付近、ブルペンやフィールドで使用したり所有することを打撃練習の開始後から禁止している。また、MLB規則1−1は、試合開始30分以内のそのような機器のクラブハウスでの使用を禁じている。この禁止には、ベンチやブルペンのいかなる人物が、電子メッセージを受け取ることができる電子設備の一切の使用禁止が含まれている。

(中略)

リプレイ室やビデオ再生室における試合映像も含め、電子機器を対戦チームのサインを盗むことを目的として使用しては一切ならない。この点に関して言えば、MLB規則1−1は、「いかなる状況においても、電子設備や機器を、サイン盗みやチームを利するためのその他の情報伝達の目的で利用してはならない。」と明記している。明確化のために述べると、クラブハウスやリプレイ室やビデオ室で対戦チームのサインを試合中に解析するためにいかなる機器も使用することは、この規則に違反する。(強調原文まま。)チームとそのスタッフで、リプレイ室やビデオ室でそのような目的で試合中に機器を使用したことが発覚したものは、コミッショナー事務局により罰せられることとなる。

2018年シーズンの前、アストロズはMLBの承認を受けて、多くの他のチームがそうであるように、リプレイ再生室をダグアウトに遥かに近いビデオ室に移した。本調査では、2018年に、ゴミ箱叩きをアストロズの選手がしていたという証拠は見つからなかった。しかし、アストロズのリプレイ再生室のスタッフは、少なくとも2018年シーズンの一部で、引き続きセンターカメラのライブ映像を用いてサインを解読し、直接人間を介してサインをダグアウトに伝達し続けていた。2018年シーズンのどこかの時点で、最早効果が無いと選手たちが感じたため、リプレイ再生室を使ってのサイン解読をアストロズは止めた。本調査では、2018年ポストシーズンで電子設備を利用してサイン解読と伝達を図ったということは、見つからなかった。

2019年シーズン前、コミッショナー事務局はサイン盗みに関する指針を改訂し、その中のひとつとして、コミッショナー事務局により設置された人物がリプレイ再生室に留まり、ルール違反が起きていないことを確認すること(2018年ポストシーズンに始まった運用)が含まれていた。本調査では、2019年シーズンとポストシーズンにおける、本指針への違反は見つからなかった。

これまでに述べられたこと以外では、2016年から現在までアストロズが対戦チームのサインを解読するために使った計画や手法は見つからなかった。

III. アストロズの選手とスタッフのルール違反に関する責任について

アストロズが2017年と2018年に行った、対戦チームのサインを解読しバッターに伝えるという手法は、チームの最上位運営者によって計画されていたり指揮されていた動きではない。むしろ、2017年のゴミ箱を叩く手法は、コーラという例外はあるが、選手主導かつ選手実行であった。アストロズのリプレイ再生室スタッフによるセンターカメラを使ってのサイン解読の試みは、アストロズ選手やコーラと関わりのある、より下位の運営スタッフにより始められ実行されていた。リプレイ再生室のスタッフが関与するこの取り組みについて、少なくともルーノー(訳注:GM)宛のメール2通で言及されており、この事に関するルーノーの説明については矛盾があることになる。(訳注:ルーノーGMはサイン盗みに関する事実を一切知らなかったとメディア等に述べていた。)ルーノーの実際の認識度合いによらず、アストロズの2017年と2018年のルール違反は、チーム運営部門のトップと監督が、管理下にあるスタッフに対して組織という骨組みにおけるルール遵守の意識を植え付けたり、不適切な行いを即座に止めるということを十分に管理できなかったことに原因があると考えられるように思う。

アストロズの選手
 2017年チームにいたほとんどの野手が、サインの情報をゴミ箱叩きで受け取ったり、サイン解読やゴミ箱叩きを手伝うことでこの仕組みに加担していた。聴取された選手の多くは、フェアな競争と思われるレベルの一線を越えていたり、MLBルールに違反するため、このやり方が不適切なものと認識していたことを認めた。選手たちは、もし監督のA. J. ヒンチがこの行為に携わるのを止めてくれていれば、即座に止めていただろうと述べた。

アストロズの選手たちは、ヒンチや他のアストロズのスタッフから自分たちのしていることを隠そうとはしていなかったが、他チームの選手たちに見つかることは懸念していた。何人かの選手は、ホワイトソックスのダニー・ファーカー投手がゴミ箱叩きに気づいた様子であった時にアストロズのダグアウトが一種の”パニック”のようだったと調査官に対して語った。(訳注:ファーカー投手が気づいた時のことは、The Athleticの記事においても本人が語っている内容が読める。また、youtubeでその時の実際を見ることもできる。https://www.youtube.com/results?search_query=farquhar+astros試合の結果に影響を与えるような要素はあまりに多く、本件に取り組むことで順位の考察が必要になるかもしれない。(処罰を)決めるという目的は置いておき、この仕組が効果的であったかどうかに関わらず、ルールに違反したことと最低でも公平さを欠かせたわけであり、重大な処罰が必要になる。

個々のアストロズ選手たちに対する処罰は、課さないこととしたい。私は2017年9月に、チームのGMと監督にこの類の誤ちの責任を課す決定を行った。(訳注:レッドソックスの件を指す。)そして、今回もそれに沿いたいと思う。この類の行為への処罰を選手たちに課すことは、困難でもあり非現実的である。困難であるのは、実質的には全てのアストロズの選手がこの手法に対して何かしらの関与や把握をしていたことと、そして調査記録に基づき何かしらの確証を伴って、責任を取るべき選手を線引きしたり責任の相対的度合いを定めることができる立場に私はいないためである。関与した選手の多さや、選手の多くが現在は他のチームでプレーしていることを考えても非現実的である。

しかしより重要であるのは、チームのGMと監督に、選手たちがルールを理解し遵守するようにすることの責任があるということだ。我々の事務局では相当な数の細かなルールや手続をチームに対して発行している。それらの多くは、サイン盗みに関するものも含めて、選手たちには直接送付されない。チームと、そして今回のケースはGMと監督に、選手たちにプレーに関するルールを教えたり指示をする義務がある。ここでは、チームのベンチコーチがこの仕組みに実際に加担した人物であり、監督が気づいていながら止めようとしなかったことから、選手の中には自分たちの行為がチームが見逃してくれているだけでなく、推奨されているのではないかと思った者もいたかもしれないと思う。これはチームによる過ちであり、責任を課す何人かの個人は例外として、私の懲罰はチームに向けられるものになる。

ジェフ・ルーノー(GM
 ルーノーは、ゴミ箱叩きとリプレイ再生室のスタッフによるサイン解読とダグアウトへの伝達に関する認識を頑なに否定している。本調査では、ルーノーがゴミ箱叩きを認識していた事を示すような証拠は見つからなかった。また、ルーノーがリプレイ再生室のスタッフによる2017年と2018年のサイン解読の試みを考案したり、実際に指揮していないことが明らかになった。ルーノーはリプレイ再生室のスタッフによるサイン解読と伝達を一切把握していなかったと否定しているが、書類でも証言でも、ルーノーがいくらかは把握していて、大して注意を払わなかったことを示す証拠がある。

ルーノーがチームのルール違反を知っていたかどうかに関係なく、チームの行為について彼に責任を課すこととしたい。スタッフや選手の動きを把握し、クラブ所有およびMLBルールの基準に合っているようにすることがGMの職務である。レッドソックスの2017年の事件を知っておきながら、さらに2017年9月15日の私の文書と2018年3月のジョー・トーリの文書を受け取っていたにもかかわらず、ルーノーはチームが確かにルールを守っているようにするための十分な対策を講じかねた。ルーノーは双方の文書を転送したり、選手やスタッフがMLBルールや文書に適合しているかを確認しなかった。仮にルーノーが2017年に9月にこれらのことをしていれば、アストロズはいずれのサイン盗みの仕組みもその時点で止めていただろうと思える。

最後に、元GM補佐ブランドン・トーブマンのクラブハウス祝勝会での振る舞いに関する別調査で行った9人への聞き取りと、本調査で行った68人への聞き取りから浮かび上がったアストロズの野球管理部に関する見解を述べておきたい。野球管理部を運営する非常に経験豊富な人材がいる他のチーム同様に、アストロズのオーナーのジム・クレインと最高責任者たちはチームの営業面に注力し、野球のことはルーノーに管理と裁量を委ねていた。そして、第2のデータ分析革命を先駆し、ヒューストンアストロズをポストシーズンの常連に再建した実績から、ルーノーがこの世代で最も成功した野球幹部であると広く考えられている事実を踏まえれば、この権限の分割に対する疑問を呈することは難しい。しかし、ルーノーの野球運営部門がデータ分析において主導者であることは疑いようが無い一方で、そのスタッフの扱われ方自体や他のチームとの関係性やメディアや外部の利害関係者との関係性に表されるように、野球管理部門のやり方は非常に問題的であったとはっきりと思える。少なくとも、結果重視主義であったことと、指導力と十分な管理力に欠けるような個々人から成る組織であったことも相まって、野球管理部門の閉鎖的なあり方が、ブランドン・トーブマンの件、その件について明らかに不適切で不正確な対応をしたこと、そして最後にこの報告書で述べられているような行為が起きてしまったことを助長するような環境を生み出した原因の少なくとも一部であると思う。この段落における所感は、あくまで野球管理部門に関するものである。この側面の調査が、野球管理とは独立して動いていたチームの経営面にまで及ぶことは無かった。

A.J. ヒンチ(監督)
 ヒンチは、ゴミ箱叩きを考案したり、それに携わることはなかった。ヒンチは、ダグアウト近くのモニターを使ってのサイン解読とゴミ箱叩きを手助けしたことはなかったこと、そしてその行為が誤りで目障りであると思っていたことを調査官に対して述べた。ヒンチは、2度、物理的にモニターに損傷を加えて交換を必要とさせることでこの仕組みを認めていないことを示そうとした。それでも、ヒンチはその行為を止めさせたり、選手やコーラへの反対を示すことを、2017年9月にレッドソックスが罰せられた後もしなかったことを認めている。同様に、リプレイ再生室からのサイン情報の伝達についても、少なくとも一度はリプレイ電話をこの目的で使用することへの懸念を具体的に述べるなど反対ではあったが、存在を知っていて止めさせなかった。選手やコーチを管理する責任を持つ役割であることを考えれば、ヒンチが適切な行動を欠いたことを正当化できる事由は単純に存在しない。もしヒンチがどのように対処すべきか分からなかったのであれば、ルーノーにこのことについて把握してもらうことが彼の責任である。ヒンチは、私や調査官に対してこの行為を続けさせてしまったことを強く悔いている態度を示していた。私はヒンチの後悔を評価してはいるが、特に十分に行為のことを分かっていながら2017年ポストシーズンも続けさせてしまったことから、チームの行為について責任を追うことを命じざるを得ない。

アレックス・コーラ(ベンチコーチ) 
 コーラは、サイン盗みと伝達のためのゴミ箱叩きとリプレイ再生室の使用を推進することに関与していた。コーラは両方の仕組みに携わり、自らの実際の関与を通じて、選手たちの行為を暗に認めていた。コーラに対する処罰の決定については、コーラが監督であった2018年にレッドソックスが行った、受け入れがたい電子的なサイン盗み疑惑への調査を調査部門が終えるまで差し控えたい。

ブランドン・トーブマン(元GM補佐)
 トーブマンの職は、アメリカン・リーグ優勝決定戦の祝勝会で1名以上の女性リポーターに彼が向けた不適切な行為のため、アストロズにより2019年10月24日に打ち切られた。このサイン盗み調査の完了を待ってから、当該行為により無資格者リストに載ることになるだろうと2019年11月15日に私はトーブマンには告げていた。調査官がトーブマンにサイン盗み疑惑に関する聞き取りを行ったところ、ルーノーと同様に、ゴミ箱叩きとリプレイ再生室を使ってのサイン伝達のいずれについても認識を否定した。トーブマンに対しては、後述のとおり、クラブハウスでの不適切な行為により重大な処罰を課すため、アストロズのルール違反の責任を定めることは不必要と判断する。

アストロズのオーナー兼チェアマン ジム・クレイン
 ジム・クレインは自らのチームによるMLBルール違反について一切認識していなかった。むしろ、クレインはレッドソックスへの処罰が発表された後、ルーノーにアストロズが同様のことを行っていないことを確認するように伝えていた。

より下位の構成員で、ルール違反に気づいていた者や、他者に指示されてルール違反に携わった者がいた。それらの構成員の行為が処罰に値するのか、その他の是正措置に値するのかは、アストロズの意思を尊重したいと思う。

処罰

アストロズの行為と野球部門の首脳陣たちは、重大な処罰に相当すると考える。これは、2017年9月に、注意通知を彼らが与えられていたという事実に基づくもので、サイン盗みに関する指針に違反した責任を追わせるものである。また、彼らはチームの選手やスタッフが2017年ポストシーズンと2018年レギュラーシーズンにその指針を守っていることを確かめることをしなかった。この報告書で述べられている行為は、他のMLBチームのファン、選手、首脳陣そしてメディアに対して、アストロズが関係した試合の正当性に関する疑念を抱かせるものであった。そして実際にその行為がプレー結果に影響したかどうかを判断することは不可能である一方で、その行為がいくらか行われたという認識が試合に深刻な害をもたらしている。

アストロズチームへの処罰

  1. 2020年と2021年のドラフトでの1巡目と2巡目の指名権を剥奪する。チームがいずれかの年において1巡目や2巡目の指名権を、メジャーリーグルールや基本的合意の行使により所有しない場合は、その指名権を所有する次のドラフトで対応する指名権が剥奪されるものとする。明確化のために述べると、チームは2度の1巡目指名と2度の2巡目指名を合計で剥奪される。剥奪された指名権はその指名順から除かれ、他の指名が繰り上がることになる。

  2. チームは私の事務局に500万ドルを払うこととする。これは、メジャーリーグ規約で可能な最大の罰金である。

個人への処罰

  1. ジェフ・ルーノーは、2020年1月13日から、2020年のワールドシリーズ終了日での期間、無給の謹慎処分とする。謹慎期間中、ルーノーはアストロズや他のMLBチームのための従事活動や営業活動を一切してはならない。ルーノーは、球場を含むメジャー、マイナー、スプリングトレーニングの施設にいてはならない。また、チームと、またはチームのために移動してはならない。謹慎期間中、私の事務局はルーノーと、将来この報告書で述べられているような類の出来事が起こらないようにするため、管理およびリーダーシップに関する適切な研修プログラムについて話し合うこととする。もしルーノーがメジャーリーグルールに将来重大な違反をすることがあれば、永久無資格者リストに加えられる。

  2. A.J. ヒンチは、2020年1月13日から、2020年のワールドシリーズ終了日までの期間、無給の謹慎処分とする。謹慎期間中、ヒンチはアストロズや他のMLBチームのための従事活動や営業活動を一切してはならない。ヒンチは、球場を含むメジャー、マイナー、スプリングトレーニングの施設にいてはならない。また、チームと、またはチームのために移動してはならない。もしヒンチがメジャーリーグルールに将来重大な違反をすることがあれば、永久無資格者リストに加えられる。

  3. 2019年10月19日のクラブハウスでの不適切な行為に基づいて、ブランドン・トーブマンはいかなるメジャーリーグのチームのためにも、被雇用者や独立契約者として従事活動をしてはならない。処分は2020年ワールドシリーズ終了日までの期間とし、その時点で私に復職を申し出ることができることとする。もしトーブマンがメジャーリーグルールに将来重大な違反をすることがあれば、永久無資格者リストに加えられる。

 

2020年1月13日

ロバート D. マンフレッド, Jr
野球コミッショナー

3.個人的考察

なかなかのボリュームになった。ちゃんと読むのもそれなりに大変だろう。あとは、私(ブログ筆者)の本件に関する考察を、箇条書きで述べておきたいと思う。

  • 処罰が軽い?
    ワールドシリーズチャンピオンを剥奪しないのは処分が軽いという批判も多いようであるが、私は妥当であると思っている。いくつか理由があるが、まずは2年前の出来事であることから、全容を正確に把握することが困難であることが挙げられる。次に、アストロズがチャンピオンでないとした場合、本当のチャンピオンはどのチームになるのか?ワールドシリーズの対戦相手だったドジャースか、それともそれまでのリーグ優勝決定戦でアストロズに負けたヤンキースなのか、それは考えようがない。
    そして、チャンピオンシップを剥奪することは選手への制裁にもつながるが、多くの選手がすでに他チームに移籍してしまっており、さらに個々の選手の関与度合いを今から調べるのが難しいことが大きい。そうなるとチームに対する制裁ということになるが、チームに対してルール上最大の罰金とかなりのドラフト権の剥奪が課されており、十分な処罰と感じた。
    また、アストロズはおそらく氷山の一角であるだろう。他のチームで同様のサイン盗みが全く何も行われていないという保証はどこにもない。仮にワールドシリーズ優勝を剥奪するという処分を課したときに、他の優勝チームでも電子的なサイン盗みの事実が発覚したら、ワールドシリーズ優勝が虫食いだらけになることにならないか?
    また、肝心の当時コーチのコーラに対する処罰が保留になっている。キーパーソンであるコーラは、レッドソックスの件の調査の後に処罰が発表されるが、それなりの処罰となるのではないか。(個人的には永久追放を予想)

  • 大事なのは忘れないこと。
    選手への罰はなく、記録上の訂正も何もない。だが、機械を使ってのサイン盗みと伝達をしたような選手たちが殿堂入りに値するだろうか?例えばアルトゥーベという生え抜き選手には数字的に殿堂入りの可能性が将来的に大いに生じうるが、殿堂入りにふさわしい選手と言えるのだろうか?投票する記者は、そのことを思い出さなければならない。

  • なぜ選手でベルトランだけ名前が挙げられている?
    報告書で、かつての所属選手の中で具体的な名前が挙げられているのはベルトランだけだ。これは、彼が”首謀者”であったことを意味するのだろうか?あるいは、既に引退しているためだろうか?(現役の選手を名指しで挙げることは影響が大きい。)私にはコミッショナーの意図を知る由もないが、良い解釈も書いておくと、”ベルトランは正直に自分が関与したことを正直に認め、正々堂々と答えた”ということなのかもしれない。

  • 数字で目に見える違いがあるか?
    当然ながら、ゴミ箱たたきやリプレイ再生室でのサイン解読と伝達は、ホームでの試合に限られる。2017年のアストロズのホームとアウェイでのOPSを比較すると、

     ホーム: OPS .812
     アウェイ: OPS .834

    ということで、実はホームで打ちまくったという事実はない。ちなみに、アストロズがホームにするミニッツメイド・パークは、極端な打者有利・投手有利の球場ではない。(わずかに投手有利な球場のようだ。)

    また、The Athleticの記事では、いつでもやっていたという訳ではないという証言もある。(要は、大事な部分だけ実行していたかもしれない。)

    また報告書では、シーズンが始まって2ヶ月した頃から、ゴミ箱叩きが始まったことが述べられている。そして、ホワイトソックスのファーカー投手がゴミ箱叩きに気づいた試合は、おそらく2017年9月21日の試合だ。
    https://www.baseball-reference.com/boxes/HOU/HOU201709210.shtml

    となると次は、6月頃〜9月中旬までの打撃成績がどうなっているかが気になってくるので、簡単にグラフにしてみた。データは、baseball-referenceから引用した。

    これを見ると、7月に打撃成績を伸ばした選手が多いもの、ゴミ箱叩きの期間に圧倒的に打ちまくったということはあまり見当たらない。ただ、Altuve、Correa、Bregmanが大きく6月→7月と成績を伸ばしていること、5月→6月に成績を伸ばしている選手も多いことは気になったが、何もかもが疑わしく見えてしまっているだけなような気がする。ちなみに、第2の図は月ごとのホーム・アウェイの試合数をまとめたものだ。

  • サイン盗みは対策を立てやすい。
    サイン盗みをしていたアストロズだが、鬼のように打ちまくってはいなかった。サイン盗みをしていたにも関わらず、なぜだろうか?
    それは、サイン盗みをされていると気づいたら、それを逆手に取ることも容易にできるからではないだろうか。例えば、通常のサインに加えて別に秘密のサインを作っておき、その秘密のサインで球種を決めるというやり方がすぐに考えられる。つまり、捕手の股でダミーのサインを出した後、実はミットをどこに置くかで球種が決まっているとか、そのようなやり方はいくらでもある。

  • 2017年にアストロズに所属していた青木選手は?
    7月31日にトレードされるまで、青木宣親選手は2017年にアストロズに所属していた。このサイン盗みに完全に無関係ということは考えにくい。(報告書でもほとんどの野手が・・・と述べられている。)まだオフシーズンということもあり、本人が公の場に姿を現していないだけかもしれないが、メディアはこの件を本人に直撃するべきだろう。あるいは、潔白を訴える声明が私の知る限り公表されていないということは、やはり関わっていたということなのだろうか。。
    The Athleticの記事において、アストロズの中には球種伝達を好まない選手もいた、と言われている。青木選手がその一人であってくれたらと思う。

  • 多分、そんなに珍しいことではない。
    告発記事であるThe Athleticでもタイトルや冒頭で述べられているように、機械を使ってのサイン盗みはどこにでもあると言われている。同記事には、アストロズでサイン盗みを始めた選手は前の所属チームでやっていたという記述もある。日本でも、実際にやられていても全く不思議ではない。週刊誌レベルの記事はこれまでも何度かあった。というか私は日本でもカメラ等を利用したサイン盗みはどこにでもあって不思議ではないと思っている。

  • 野球中継でサインのやりとりをするところを映す映像が少ない。
    ここ数年だろうか。捕手と投手が球種のやりとりをするところを、テレビの野球中継で見る頻度が非常に減ったと思う。それまでは私は、球種のサインを自分なりに読み取って、投球前から球種をわかった上で野球中継を楽しむことがそれなりにあった。(二塁にランナーがいるときの複雑なサインまでも理解しようとはほとんどしなかった。)
    ただ、最近ではそのようなことは非常に減った。バックスクリーンからの映像は投球直前になるまで映されず、投手や打者のアップなどの映像が使われる頻度が増しているはずだ。
    私はこの理由は、中継テレビ局の好みというわけではなく、テレビ中継を利用してのサイン盗みを防ぐためであるだろうと半ば確信して考えていた。つまり、残念ながら日本のプロ野球にも疑わしい行為が存在したため、NPBが中継会社に指示をしてそのような映像が流れないようにしたのだろう、ということだ。
    話がそれてきたのでそろそろ終わりにするが、現在のプロ野球で、機械を使ってのサイン盗みが全く行われていないという確信は私にはとても持てない。

  • サイン盗みなのか?癖がバレているのか?
    2017年のワールドシリーズの中継を、私もリアルタイム(か録画で)見ていた。ダルビッシュが先発した試合も見ていたが、「球種が読まれているのではないか」と見ていて強く感じた。(今になっては何とでも言えてしまうが、見ていて確かにそう思ったことを覚えている。)当然、ダルビッシュ(か捕手)に癖があって球種が読まれているのだろうと思っていたが、サイン盗みであった可能性が高いのだろう。。
    これだけ技術が発展し、ズルをするのが容易な時代において、投手からしてもサインが盗まれているのか癖がバレているのかと疑心暗鬼になるのは可愛そうなことだ。

  • 再発防止をどうするか?
    機械を使ってのサイン盗みに関与したものは永久追放にするというルールを作ったらどうか?そして、抜き打ちの捜査・身体検査等を実施することにする。こうすれば、なかなか実行しようとは思えないのではないだろうか。

  • バレーボール等ではどうやってサイン盗みを防止しているのだろうか?
    バレーボールも、サイン盗みが大きくモノをいう競技だと思うが、あまり聞いたことは無いように思う。どのように防止策を取っているのか、気になる。

 

 

アストロズのサイン盗み報告書の全文和訳と個人的考察(2020年1月25日)」への4件のフィードバック

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