CS第1ステージは運ゲーである!
一般に、勝負事においては勝負の回数(母数)が多いほど、実力が反映された結果に収束しやすい。直感的にも統計学的にも、この事実は明らかである。仮に1試合だけの勝負の場合、2軍のチームが1軍のチームに勝つことだってあり得るだろう。
そして少し母数を増やして、3試合制で2試合先取した方が勝ち抜けとしたとしても、同様に運の要素がかなり強いと思われる。体感的には、143試合のシーズンでたとえ2位チームが3位チームに10ゲーム差をつけていようが、わずか2連敗を喫してしまっただけで、その結果がひっくり返ってしまうと考えると、恐ろしい気がする。(2連敗はどんなに強いチームでもする。)
1.数学的考察(確率の計算)
はじめに、いかにCS第1ステージが「運ゲーであるか」を確かめるために、CS第1ステージの勝ち抜け確率を数学的に計算してみる。(興味のない方には、結果となる表だけ見てもらえればと思う。)
2位のチームをA、3位のチームをBとし、それぞれが勝つ確率をa、bとする。また、引き分けも考え、引き分けとなる確率をcとしよう。(当然、a + b + c = 1 である。)
チームBが勝つパターンは4つあり、それぞれの確率は、
・2連勝 b*b
・2勝1敗(1勝1敗から勝つ) 2*a*b*b
・1勝2分 3*b*c*c
・2勝1分(1勝1分から勝つ) 2*b*c*b
したがって、それぞれのチームのCS第1ステージを勝ち抜く確率をPa、Pbとすると、
Pa = 1 – Pb
Pb = b^2 + 2ab^2 + 3bc^2 + 2cb^2 = 3b^2 – 2b^3 + 3bc^2
となる。実際に表にしてみると、 引き分け確率c を適当に2%(50試合に1回)として、こんな結果になる。
つまり、1試合だけで見ればチームAが70%の確率で勝つ場合であっても、チームAがCS第1ステージを敗退する確率は約20%もある。3試合制なのだから、そういうことが起こり得るのがCS第1ステージなのだ。
2.実際の勝敗:3位の方が勝率が高い!
と、机上の計算はわかった。では、実際に2位チームが勝ち上がるケース、3位チームが勝ち上がるケースはそれぞれどのような頻度で発生しているのだろうか?現行の「クライマックスステージ」が始まった2007年からのデータをまとめてみた。
背景が緑色になっているのが勝ち上がりチームで、その中でもフォントが赤になっているのは1位チームを倒して日本シリーズに出場したチームである。また、2位チームと3位チームのゲームの大きい順に並べた。
2位チームがCS第2ステージに出場したのはのべ10チーム、3位チームの場合は14チームであった。
2位チームの方が3位チームよりも強いはずなのに、3位チームのほうが勝率が高く、勝ち上がり回数も多い、という結果になった!2位チームからしてみれば、頑張って2位になったのに3位チームに負ける確率が高いという散々な事実である。(つまり、3位になった方が得なのに、頑張って2位になってしまった、ということ。)
また、10ゲームがつくほど2位と3位の間に実力差があると、2位チームが勝ち上がることがさすがに多いことがわかる。しかし、5ゲーム差の場合は、レギュラーシーズンの差がCS第1ステージの結果に与える影響は無いようだ。
3.なぜ3位の方が勝率が高いのか?
いくつかの要因を考えてみたいと思う。
要因1:2位チームは1位チームとシーズンで競ることが多く、消耗している。
これに対する反論は、3位チームだって4位チームや2位チームと順位を競るので、等しく消耗する可能性があるというものだ。
しかし、2位チームは優勝という特別な順位を懸けて、何とか1位チームに喰らいつこうとする可能性が高く、3位チームよりも消耗する傾向にあることは間違いないだろう。(優勝という栄誉、CS第1ステージの運ゲーさ、CS第2ステージのアドバンテージを考えると、優勝したいと強く思うだろう。)
要因2:シーズンで順位が下のチームに負けられないというプレッシャー
順位が上のチームが勝つのが当たり前という概念を捨てられないと、2位チームはそのことによる心理的プレッシャーに苦しむことになる。プレッシャーによるパフォーマンス低下が勝率を下げることは確かに考えられる。そして、3位チームがそのプレッシャーに苦しむことはあまり考えられない。
ただ、借金もちで3位になったチームに対する「日本シリーズに出場すべきではない」という批判は当然起こるものだと思うが、これは3位チームの選手のプレーへの集中を妨げるだろうと思う。
要因3:そもそも3試合の短期間では2位と3位チームに実力差が無いか、あるいは逆転する
たとえば、2位チームと3位チームで先発投手頭3枚の充実さを比べたときに、優劣が無いか、むしろ順位と逆の優劣であることがある。つまりは、4人目以降の先発投手の差が、シーズンにおける2位と3位を分けた、という場合である。
そして、この要因が最もシリアスで、避けては通れない議論であると思う。極端な話をすると、1位と6位の対戦を考えたときでもこのロジックはありえると考えると、非常に悩ましくなる。
4.結局、CS第1ステージはどう捉えたらよいのか?・・・「運ゲー」の何が悪いのか?
ここまで考えたように、CS第1ステージは紛れもない「運ゲー」である。頑張って2位になったチームが、3位チームに敗退して、シーズンを終えるというのは非常に同情したい結果である。(かく言う私も、贔屓チームであるオリックスが過去のCS第1ステージでいずれも敗退してしまったのはこの上なく残念だった。)
しかし、CS第1ステージが「運ゲー」だからといって何が悪いのだろうか?
私のスタンスはこうだ:
CS第1ステージは、あくまでリーグ1位のチームに挑戦する権利を賭けての競技である。3位までに入れば「運ゲー」を経て1位チームに挑戦する権利を得ることができる制度、と考えれば不自然なことはない。1位になれなかった時点で、「運ゲー」に運命が委ねられようが、文句は言えないということだ。
もしCS第2ステージが「運ゲー」であるならば甚だ問題だと思うが、実際はそうではない。なぜならば、1勝のアドバンテージもあるし、4勝先取制であるから短期決戦ではあるものの「運ゲー」と言えるほど運の要素は高くない。むしろ、その不利な状況の中を4勝して勝ち上がったチームは最強チームを決定する日本シリーズに出場する資格があると思われる。
そして、この「運ゲー」を否定することは、「順位を尊重し、2位チームが1位チームに挑戦しやすくなるような制度にして欲しい」と主張することだ。その場合は、CS第1ステージは廃止しいきなり1位チームと2位チームが対戦する方式か、あるいは、CS第1ステージにおいて2位チームにアドバンテージを付する方式か、CS第1ステージの長期化を提案することになるだろう。
そのいずれも当然一理あると思うが、3位までポストシーズンのチャンスがあることによる興行的メリット、2位か3位のチームが消耗した状態で1位チームに挑むことによる1位の有利さの担保、1位チームの実戦離れ期間をなるべく抑える制度、ということを考えたときに、現状のCS第1ステージは絶妙なバランスであると思う(完璧かと言うと、決してそうは結論できないが)。
5.個人的な提案:クロス方式はどうか?
とはいえ、ゲーム差を大きくつけたにもかかわらず、2位チームが3位チームに負けてシーズンを終えるのは、何とも悲しい光景である。そこで、私はリーグをクロスしてのCS第1ステージを提案する。
つまり、アドバンテージ等の条件は変えず、
CS第1ステージ
・セ・リーグの2位 vs パ・リーグの3位 (Aブロック)
・パ・リーグの2位 vs セ・リーグの3位 (Bブロック)
CS第2ステージ
・セ・リーグの1位 vs CS第1ステージのBブロックの勝者(=パ2位またはセ3位)
・パ・リーグの1位 vs CS第1ステージのAブロックの勝者(=セ2位またはパ3位)
としたらどうだろうか?ポイントは以下の通りである。
- 順位が下のチームに敗退する場合であっても、リーグが違えば、やるせなさはそこまでない。
- つまり、リーグが異なるチームで「運ゲー」を戦う方が、シーズン順位を否定する効果が少ない。
- 日本シリーズが、例えば「パの1位 vs パの2位」となることがありえる。しかしその場合であってもパの2位は、「運ゲー」を生き残り、セの1位を不利な状況で倒したチームである。そのチームが日本一をかけて上位チーム(パ1位)に挑むのに不自然さは感じない。
「CS第1ステージは「運ゲー」であることを受け入れよう(2018年10月20日)」への15件のフィードバック