ストライクゾーン等の判定の機械化について(2021年5月16日)

野球の常だが、審判がおかしい(と思われる)判定をする度に、「機械判定早く」というような声が聞かれる。

たしかに判定が100%の精度で行われるようになれば、それはプレーする側からも見ている側から見ても最良のことに違いないと思われる。

ただし、これはただの理想論でしかないということを、今日は考えてみたいと思う。

 1.そもそも各種判定の定義があいまい。

例えば、ストライクゾーンは、公認野球規則では以下のように定義されている。

『打者の肩の上部とユニフォームのズボンの上部との中間点に引いた水平のラインを上限とし、ひざ頭の下部のラインを下限とする本塁上の空間をいう。このストライクゾーンは打者が投球を打つための姿勢で決定されるべきである。』

この定義に則って、機械判定でストライクとボールを区別することができるだろうか?答えは、「非常に難しい」と言わざるを得ない。なぜかというと、あまりに曖昧な部分が多いからだ。列挙していこう。

  • 「肩の上部」とは具体的にどこ?肩が傾いているときはどこを基準にする?
  • 「ユニフォームのズボンの上部」とは具体的にどこ?例えば、ズボンのトップがへそくらいまでのデザインだったらどうする?あるいは、いわゆる腰パンのように履いていたらどうなる?
  • 「ひざ頭の下部」とは具体的にどこ?
  • 「打者が投球を打つための姿勢」とは何?仮にしゃがんだまま打とうとする打者がいたときに、そのストライクゾーンはどのようになる?

他にも、判定にあたってそのものの定義が曖昧なものはいくらでも挙げられる。

  • ハーフスイング・・・曖昧の最たる例だろう。
  • ボークの基準・・・曖昧というか、明確に線引きをすることが難しい。
  • 捕球のタイミング・・・グラブがボールに触れた瞬間?それともボールがある程度静止した瞬間?(おそらくアウトセーフをめぐってのリクエストが今のプロ野球では一番多いと思うが、これを完全に機械判定化するには捕球のタイミングを定義する必要がある。)

2.機械判定のためには何が必要か?

まず、各種判定の明確な定義を定めなければならない。

結局、機械による判定は人が組んだプログラムによってされるもので、プログラム内で「線引き」をする必要があるからだ。先に挙げたストライクゾーンの例では、各種曖昧な部分をすべて明確に定義しなおさなければならない。

3.機械判定の弊害

  • 判定の明確な定義を逆手に取って、ギリギリまで攻めたプレイスタイルが可能になる。

    例えば、ボークの明確な定義ができたとする。僅かでもその定義に達しなければボーク扱いにならないので、その寸止めのギリギリのところで、人の目からしたら見たらボークにしか見えないような牽制ができるようになる。
    現状は、良い意味で基準で曖昧なので、ギリギリの牽制をするのは難しい。

  • 機械にさえ判定してもらえればよいので、人への見せ方は軽視される。

    例えば、捕手がボールを捕球するときのいわゆるフレーミングの技術は完全に不要になる。(それどころか、捕手はボールを受け止めさえすればよいのだ。)

4.現実的な落としどころ

明確な線引きができるものについては、定義化を進め、それに応じて「完全に機械に委ねた判定」を推進すべきだろう。

一方で、明確な線引きが困難なものの方が多いと思われるが、そういうものについては機械だけによる判定は不可能だ。機械ができるのは、せいぜい過去の同様のケースや(曖昧な)定義を踏まえて、「●●である確率が●●%」程度のアウトプットをするくらいのものだ。だから、私個人の考えとしては、ストライクゾーンで言えば、機械からの「ストライクの確率が80%」という情報を踏まえて審判が自分の判断でコールをするくらいが将来的な目標だと思う。

また、機械による推測と実際の判定との差を蓄積することで、その審判の判定が一般的な傾向と合っているかを割り出すことができるので、審判間の判定の平準化につながる。(少数派の判定を繰り返す審判がいたら、自分は普通の判定からズレている、ということを認識できる。)

 

(雑談)

個人的には、世の中全般に対して、「何でもかんでもアルゴリズムやルールを決めて、それを当てはめていくだけではダメだよね」と思っている。例外はいくらでもあるし、アルゴリズムやルールに当てはまらないものもいくらでもある。

何でもかんでも「システム化」しようとするのは必ずしも悪いことではないが、システム化の弊害も踏まえて柔軟な姿勢を崩さないでいたいものだ。

ストライクゾーン等の判定の機械化について(2021年5月16日)」への3件のフィードバック

  1. 高さについてはともかく、コースについては機械による判定が必須ですね。

  2. 1項でそもそも定義が曖昧と有るが、それが明確になって無くてアンパイアが判定している事がおかしい。
    アンパイアの感覚でやってるという事か?
    立姿で捉えるか、バッティングフォームで捉えるかは明確に出来る。各球団の了解の本で、ボール、ストライクは機械化すべきだと思う。

  3. バックネット側(ピッチャーから見える側)とバックスクリーン側(キャッチャーとバッターから見える側)、当然に観客からもどちらかが見える、そのような場所にディスプレーを置き、あらかじめ機械はどこをストライクゾーンにしているかを表示させることで、曖昧さは回避される(公然の了解となる)

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