チームOPSと得点数の関係 〜「2.43乗」について〜

①得点と相関のある指標は?


各チームの得点数を並べたときに、その順番が打率の順と同じになることは非常に稀である。つまり、打率と得点の相関は、意外かもしれないが弱いのである。それでは何を見たらよいのかというと、野球ファンによく知られている「得点と最も相関のある指標」のひとつは、「打率」でも「本塁打数」でも「出塁率」でも「長打率」でもなく、「OPS(=出塁率+長打率)」である。

そのため、近年は打者をOPSで評価する事が多い。ここでは、OPSと得点の相関について、より深く考えてみたい

余談

更に詳しいファンなら、「GPA」という指標を知っている人もいるだろう。OPSは出塁率と長打率を単純に足し合わせるだけなので両者の重みは完全に等しいが、「GPA」は一般に、より出塁率に重きを置いている;色々な流派があるが、「GPA=1.8*出塁率+長打率」とするものがよく知られている。

この記事でも、理想を言えば本当は「GPA」を使って相関を考えたいが、計算の単純さと汎用性を考えて「OPS」を使用することとする。

 

②OPSが0.100大きくなると、得点力はどうなる?


OPSと得点の相関を説明している記事の中で、よく見かけるのはこんなグラフと説明である。

「横軸にOPS、縦軸に得点」をプロットし、それをもっとも近似するような「線を引くと、非常に相関が強い」ので、OPSが攻撃力を測る指標として優れている。

上記のロジックは完全に正しい。が、しかし、「線」で本当に良いのだろうか。直線を使うということは、OPSの差が同じならば、得点能力の向上が等しいと考えることである。

OPS.550 → OPS.700  と  OPS.700 → OPS.850

このような理屈が成り立つと思うほうが不自然である。更に極端な例を挙げると、

  • チームA:全員2017年のソフトバンク柳田選手のOPS 1.016
  • チームB:全員2017年のオリックス若月選手のOPS .515
  • チームC:全員小学生の素人 OPS .015 ?

と、この3チームのOPSは0.500刻みで等間隔で異なるが、得点も等間隔ということがあるだろうか?おそらく、チームA:平均10得点、チームB:平均2得点、チームC:平均0得点くらいになるだろう。(ただし、OPSのみから考えているので、走塁能力などは無視して同一基準で考えないといけない。)

何が言いたいかというと、チーム平均のような大体 OPS . 700前後の狭い範囲を常に考えるときは直線に見えるかもしれないが、それでは本質は見えないということである。

 

2011〜2017シーズンのデータをプロットし、近似線を描いてみる

2011〜2017年シーズンまでの「横軸に平均OPS、縦軸に1試合あたりの平均得点」を各チーム(のべ84チーム)分、プロットしてみたのが以下の図である。

 

横軸:チーム平均OPS、縦軸:1試合あたりの得点数

青い線が、べき乗の近似曲線である。OPS .700前後をズームして見ているため曲線だということが分かりにくいかもしれないが、エクセルの「べき乗近似曲線」機能により計算されたものである。これによると、得点数が、OPSの約2.43乗に比例するという結果が得られた。(注:データ数が増えれば、また別の数字に収束するだろう。)

以下は、その理論線をより一般の範囲でプロットしたものである。

横軸:OPS、縦軸:1試合あたりの得点(上記の例の2チームについての直感が、これによると大体合っているらしい。また、打線全員が全盛期バリー・ボンズ(OPS1.4)など、想像だに恐ろしい。1試合に21点くらい取ることになるらしい。と言うか、そこまで式が外挿できるかどうか、微塵も想像できない。)

 

③「2.43乗」についての簡単な考察


ここで得られた「2.43乗」というべき乗について簡単に考える。「○乗」の中の数字が大きいほど、変化に敏感である、という性質を切り口にすると分かりやすいだろう。

例えば、2倍大きさが異なるものの2乗は4倍しか異ならないが、5乗では32倍も異なる。このように、べき乗の数字が大きいほど、インプットに対してアウトプットが大きく異なってくるのだ。

野球の世界では、「チーム平均OPS」に対して「2.43乗の敏感さ」で「得点数」が出力される。これが意味するのは、打線の相乗効果である。

野球はひとつの打席だけで得点のチャンスが閉じているのではなく、出塁したら後の打者のチャンスになる。つまり、OPSは「自身の打撃能力」+「他者に得点のチャンスを与える能力」という要素があるため、得点数にそれだけ大きく影響を与えるのだ。どれだけ影響をあたえるかというと、「2乗」でも「3乗」でもなく「2.43乗」なのだ。

 

④ピタゴラス勝率に当てはめる


1試合あたりの(平均の)得点数と失点数をそれぞれ\(x,y\)とすると、以下のようにしてNPBにおける勝率が予測できることを前回の記事で述べた。

$$P = \frac{1}{1+(y/x)^{1.63}} $$

さて、\(x,y\)はそれぞれ、OPS、被OPSの2.43乗に比例すると考えられるから、これを代入すると、

$$P = \frac{1}{1+({\rm 被OPS/OPS})^{3.96}}  \simeq \frac{1}{1+({\rm 被OPS/OPS})^{4}} $$

という結論が得られた。つまり、被OPSとOPSの比の4乗の数字でチームの勝率が予測できるのだ!(たまたま「4」という数字になってくれて、良かった!)

さて、これを基に、勝率のラインと被OPSとOPSの比を表にしてみよう。

勝率  OPS / OPS

0.750  0.760

0.700  0.809

0.650  0.857

0.600  0.904

0.550  0.951

0.500  1.000

0.450  1.051

0.400  1.107

0.350  1.167

0.300  1.236

0.250  1.316

 

これを見ると、優勝ラインを勝率.600とすると、被OPSをOPSの0.9倍程度に抑えられれば良いことが分かる。つまり、投手陣が打たれるよりも、打者陣が10%程度多く攻撃的であればいいだけなのだ。例えば、OPS .720、被OPS .650というチームが作れれば、かなりの確率で優勝できるだろう。

 

⑤結び


本当は、ここ10年くらいの各チームの平均OPSと平均被OPSのデータを揃えて上記の式を検証してみたいが、どうにもチームの平均被OPSのデータがどこを見ても載っていない。(そんなわけで、実は1試合あたりの失点数が被OPSの2.43乗に比例するかどうか確かめることができておらず、上記の式は純然たる仮説に過ぎない。。本来はエラー数や犠飛の数などを考慮に入れる必要がある。。)

被OPSくらいのデータも広く誰でもアクセスできるようになると、日本のプロ野球のデータでの楽しみがもっと増すと思うのだが、残念だ。(逆に言うと、それほどファンの目がまだ肥えていないということなのかもしれない。)

ちなみに、個人の選手の被OPSはデータサイトに載っている。(それらを足し合わせれば、チーム平均被OPSを算出することは可能だが、時間がかかる。。)

ざっと目を通したところによると、2017年の菅野投手はここ5年のNPBの中で最も被OPSの数値が良かった(被OPS .495)。仮に自軍の全投手が単純に菅野投手の成績なら、チーム全員が同じ巨人の2017年小林捕手(OPS  .542)の打撃成績であっても、勝率.590が達成できるらしい。

 

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