2018年8月9日: 楽天アマダー選手のアンチ・ドーピング規程違反が公表される
自分が初めてこの報を目にした時、「久しぶりのドーピングだなぁ」と思ったくらいで、それ以上のことは深く考えなかった。しかし、ちゃんと理解しておきたい事柄であると思い、せっかくなので勉強しながら本記事にまとめてみた。目次は以下の通りである。
<目次>
- そもそも「ドーピング」とは?
- ケガや病気の治療のとき:「TUE申請」とは?
- NPBにおけるドーピング検査の流れ
- NPBでのドーピング発覚事例と制裁
- 競技結果に対する遡及措置について
- 気になったこと
- 参考資料
1.そもそも「ドーピング」とは?
①「競技力を向上させる薬・方法」や、②「違反物質を使用していることをかくすための薬・方法」を使用することが一般的にドーピングであるとされる。したがって、①に該当する競技力向上のための物質が検出されなくても、隠蔽成分等が検出されれば②に該当するため、ドーピング規程違反になる。
NPBにおいては、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の禁止表は『選手手帳』に示されており、個々の選手に対して使用が禁止されている物質、方法を明確にしているらしい。
(『選手手帳』って何・・・?という感じだが、おそらく選手全員に配られているものなのだろう。)
2.ケガや病気のとき:「TUE申請」とは?
怪我や病気のときに薬を服用せねばならないが、その中に禁止物質が含まれているとき、どうしたらよいのか?
そのときは、以下の条件すべてを満たす場合に限り、「TUE申請」(Therapeutic Use Exemption申請 = 治療使用特例申請)を事前に(緊急の治療を要する場合は遡及的に)行うことで、使用が認められる。
①治療上用いらざるを得ない
②他に代わる物質・方法がない
③治療で使用した結果、競技力を向上させない
③は非常に重要であり、いくら治療のためであっても競技力を向上させてしまう場合はNGということだ。しかし、いわゆる治療に必要となる薬などが隠蔽物質に該当するものであれば、この申請をしておくことで、ドーピング違反とならないで済むわけだ。
4.で触れるが、NPBにおけるドーピング違反の中にも、この「TUE申請」に関連するものがあり、野球ファンとしても理解しておいたほうが良いと思われる。
3.NPBにおけるドーピング検査の流れ
ドーピング検査の方法は秘密にされているかと思いきや、NPBのホームページ(7.参考資料に記載)に、これ以上にないレベルでしっかりと書かれていたので、以下の通り箇条書きでまとめてみた。
- NPBアンチ・ドーピング委員会は、公式戦においてドーピング検査を実施する試合(「ドーピング検査対象試合」と呼ばれる)を指定し、試合を行う球団に、試合当日の試合開始60分前までに、「ドーピング検査対象試合」であることを通知する。
- 「ドーピング検査対象試合」でベンチ入りしている選手のなかからクジで検査する人を選ぶという方法をとる。但し場合によっては、対象選手を事前に指定して検査を行うこともある。このクジ引きは試合の5回終了時に、両チームの担当者(以下「チーム担当者」という)がドーピング検査場所で行う。(補足:過去のドーピング違反について公表されている経過を見るに4選手が選ばれるようだ。ベンチ入りは通常25人なので、16%の確率で対象になるということだ。なお、文章から読み取れなかったが、2チームから4選手を選ぶ、ということであれば確率はさらに半分になる。)
- ドーピング検査で採取する検体は、尿のみ、血液のみ、または尿と血液の両方のいずれか。A検体、B検体の2検体を採取する。まず、分析機関にてA検体のみが分析される。
- 陽性の場合、結果が球団に伝えられる。10日以内であれば当該選手および球団に事情を説明する機会が与えられる。また、B検体を利用しての再分析申請を行うことができる。B検体も陽性の場合、制裁が決定される。
4.NPBでのドーピング発覚事例と制裁
制裁には以下の4パターンがあり得る。
①譴責(けんせき):始末書をとり、将来の戒め(いましめ)とする
②一定期間の出場資格停止(1試合以上10試合以下の公式試合の出場停止)
③一定期間の出場資格停止(1年以下の公式試合の出場停止)
④無期限の出場資格停止
また、その選手が所属する球団の関係者の関与が認められた場合は、その球団に対し、1,000万円以下の制裁金を科すことができる。
さて、せっかくなので、過去のNPBにおけるドーピング発覚事例とその制裁をまとめてみた。
今回のアマダーの件は実に7年ぶりのドーピング発覚ということになる。井端選手のケースは意図しないことが明らかであり、制裁も軽いため、実質10年ぶりと言えるかもしれない。(また、初めて関東圏以外での検査でドーピングが発覚した。)
ルイス・ゴンザレスやダニエル・リオスの場合は、競技力向上につながる物質が検出され、1年間の出場停止処分が下されたが、今回のアマダーの件は利尿薬および隠蔽薬のためか、半分の6ヶ月間の出場停止処分に留まった。
MLBでもアマダーと同様の物質の摂取が発覚したシアトル・マリナーズのロビンソン・カノ選手が80試合の出場停止処分を下されており、それに近しい処分と言える。しかし、カノの場合と最も違うのはアマダーは「6か月間」という期間で区切られているということだ。具体的には、「2018年8月9日から2019年2月8日まで、6か月間の出場停止処分」であり、シーズンは10月初旬で終わるので、実質的に2か月間の出場停止ということに他ならない。(ポストシーズンを除いて考えて。)
1年間の出場停止であれば非常に分かりやすいのだが、6か月間のように中途半端だと、始まる時期によって当然意味が異なり、同じ処分の中でも公平性に欠けると思われる。(シーズン当初に発覚する場合と、終盤で発覚する場合で、実質的な重みが完全に異なる。)したがって、なぜNPBは、MLBのように試合数を単位として処分を科さなかったのか、自分としては理解できないと言わざるを得ない。
5.競技結果に対する遡及措置について
制裁内容の一覧の通り、「違反選手が出場したことにより得られた競技結果」については、遡及して何らかの措置が取られることはない。また、球団に制裁が科されるのも、最大1,000万円の金銭であり、それも球団が関与したか責任が認められる場合のみである。
したがって、今回のアマダーのように、球団の関知しないところで選手がドーピングしていた場合、選手個人が出場停止になるだけである。もちろん主力選手が出場できないのは球団からしてみれば大きな痛手なのだが、見方によっては「ドーピングによる競技力向上で勝ち星を一時的であっても稼いでくれてありがとう」ということになってしまい、ドーピングした選手のいる球団が結果的にほくそ笑むことにならないだろうか。(検査してから制裁が決まるまで1ヶ月程度かかることを考えれば、尚更そうだろう。というか、今回のアマダーの場合は2か月弱かかっている。)
何が言いたいかというと、所属する球団に対して、何かしらのペナルティがないと、球団は本当にドーピングを抑止しようと取り組まないのではないか。誤解されるといけないので述べておくが、楽天球団のことを批判するつもりは毛頭なく、一般論として、損得だけを考えてそういう思考をする球団がいても不思議でない、ということだ。
考えられる制裁は以下のようなものだろうか。
- 勝数マイナス調整 ・・・ その球団の勝ち星を差っ引く。
- ドラフト権の一部剥奪 ・・・ 特に上位。
- 制裁金 ・・・ 個人的には、カネさえ払えばなんとかなる制裁はNG。
- ベンチ入り人数の削減 ・・・ (ドーピングをしていない)選手の負担増になるのでNG。
個人的には、ドラフト権の一部剥奪が制裁として最も丁度よいと思う。(ドラフトのときに誰もが思い出すことになるし。)
6.気になったこと
- 検査対象になる選手は基本的にくじ引きで決めるとのことだが、一年に何回、検査対象試合はあるのだろうか。また、ベンチ入り選手に限定されているので、ベンチ入りを外れることの多い先発投手のドーピングが発覚しにくい気がするのだが、その辺りもカバーされているのだろうか。
- B検体による再分析費用は、球団または選手が負担するらしい。数万円程度だろうか。また、B検体の分析には選手本人が立会可能らしいのだが、分析機関で様子を眺めてもピンと来ないのでは・・・と思う。笑
- 今回のアマダーのケースから、ホームページ上での制裁通知の宛名がなくなった。(前までは「井端弘和殿」のように書かれていたのに。)すごいどうでもいいけど、なぜだろう。
7.参考資料
NPBホームページ 「NPBアンチ・ドーピングガイド2018」
http://npb.jp/anti-doping/index.html
「NPBにおけるドーピングについて考える(2018年8月16日)」への24件のフィードバック