多分、数年以内に始まる。
野球はひとつひとつの動作がはっきりしており、AIが、と言うよりも統計的に処理しやすいスポーツだと思う。
例えば、「投手が投げる動作をする」→「ボールが軌跡を描く」→「打者がスイングする」→「打球が飛ぶ」→「野手が追いかける」と、ひとつひとつのイベントを分離して考えることができるので、それぞれのイベントを評価しやすい。例えば、MLBでは何年も前から「このフライの捕球確率は●●%」と測る技術が発達している。
これがサッカーだったら、常に動的であることと人数の多さ(と人同士の相互作用)もあり、なかなかこういった解析をすることは難しいだろう。
以下にて具体的に、私が思う「AIによる野球の発展」を述べる。
1.フォーム解析
投手にしろ、野手にしろ、野球というのは同じ動作を何百何千と繰り返すスポーツだ。すると、当然フォームに関するデータは溜まっていく一方だ。
あとは、各フォームで放たれた投球や打球の「良し悪し」をデータとして入れてあげさえすれば、あとは機械的に(統計的に)「良いフォームと悪いフォーム」をAIが評価してくれる。ただし、人によって体つきや関節や筋肉の性質が異なるから、自分と他人を比べても意味がない。あくまで、自分自身のフォームの変化を考えるのだ。
投手でいえば、投球に対する打者の結果や投球のデータそのもの(球速、回転数、回転軸、捕手の構えからのズレなど)を使えば、「良いフォーム」を追求できるだろう。打者でいえば、単に打席の結果から「良いフォーム」がなにかはすぐに分かるだろう。
理屈的には、上記で書いたことは当たり前のことだらけである。あと問題になるのは、いかに「フォーム」をモデル化するか、ということだ。これは人間が考えることであり、誰かが考えてくれればいい。
一つの方法は、定点カメラをいくつも設置して、映像の切り口からフォームをデータ化する手法だ。しかし、ユニフォーム(身につけているもの)が違ったりすると、あまり良い結果を出してくれないかもしれない。ただこの方法では、別にAIでなくても、人の目で見てもフォームの違いが分かりやすいというメリットがある。今すぐにでも球場にフォーム解析用の定点カメラを設置し、フォームをデータベース化すべきだ。(相手選手のフォームのデータも取れるというメリットや、クセを解析しやすいというメリットが有る。)
もう一つの方法は、センサーがビッチリ内蔵された専用スーツを着て、身体の各点の位置を座標化する方法だろう。この方法の欠点としては、試合では着れないこと、そもそもそんな専用スーツを着ながら本来の動作ができるか、という点だ。多分、専用スーツと言わずとも身体にシールをペタペタ貼るだけで良いような仕組みが現実的なのだと思う。
2.クセの解析
上記と被るが、これこそAIの得意分野だろう。「ストレートのときは●●してる」とか「牽制のときは■■する」というような、結果がはっきりしているものは、容易に学習できる。
つまり、AIに、投手がリリースする瞬間までの動作を見せて、「この投球はストレートだった」とか「この投球はスライダーだった」というデータを何百、何千と蓄積してやる。するとAIはいずれ「それではこの動作の投球では、球種が何である確率が高いか?」と聞かれたときに、クセがあれば「カーブ」などと答えることができるようになる。もしAIが正解できなければ、クセは無いということだ。
注意しなければならないのは、これも動作のモデル化(数値化)が必須であるのと、AIは具体的にどこに違いがあるのかの説明まではしてくれないことだ。AIがするのは、投球動作のどこかのタイミングまでに球種を判定するだけである。
そこからは、「AIが判定したタイミング(まで)にクセがある」わけだから、そのクセが具体的に何であるかを人間が自分で考えなくてはいけない。この角度からの映像ではAIは判定できないが、一方でこの角度からの映像はAIが判定できる、ということも大きなヒントになる。
ただ、この技術により、投手のクセはすぐに見破られるものになる。そこで投手にとって重要になる能力が「クセを直す能力」である。その修正ができない投手は、どれだけすごいボールを投げても、クセを修正できる投手にはそれだけで劣るだろう。
3.判定の自動化
ストライク・ボールの判定は打者によって範囲が違うので、そこまで含めてAIに判断させるのは難しいと思うが、セーフ・アウトの判定はしやすいと思う。特に一塁の打者走者のアウト・セーフに限れば、非常に容易とすら思う。
何故かと言うと、A=「ファーストが捕球したタイミング」と、B=「バッターの足がベースについた瞬間」を比べるだけの簡単な作業になるからだ。
A=「ファーストが捕球したタイミング」は、「ファーストのミットにボールが収まって速度が一定以下になった瞬間」と考えれば、容易にAIは判定できる。その瞬間にファーストがベースに触れているかも判定できる。
B=「バッターの足がベースについた瞬間」も、「ホーム方向から走ってきた物体の末端がベースに触れた瞬間」と考えれば、容易にAIは判定できる。
あとは、AとBのどちらが早かったのかを比べればいいだけだ。
ただ、タッチプレーになると、動いているもの(グラブ)と動いているもの(走者)の接触とその有無の判定になるので、実際にプログラム化するのは簡単にはできないだろうと思う。
その他にも、「横方向のみのストライク・ボールの判定」は、打者に限らず一定のはずなので、絶対的にできる。そうなるとあとは、人間の審判が高さだけを判断すれば良い。横方向の基準が一定なので、よりフェアな勝負が繰り広げられるだろう。(ただ、捕手のフレーミング技術の価値は大きく下がることになる。)
また、「フェアとファールの判定」も、機械的にできるだろう。フライで言えば「野手がフライを捕球したグラブの位置」を数値化すればよいだけだし、ゴロで言えば「一塁(三塁)ベースより左か右か」だけを判定すればよいだけだ。ホームランのフェアとファールも、「フェンスを横切った際の座標」で容易に判定できる。
こういった自動判定技術が発達すれば、審判にかかる人件費が大幅に減ると思われる。そもそも各塁にいなくても良いだろうし、審判の養成にかかる費用も減るだろう。何よりも、AIのアシストにより審判の仕事が「ちょっと訓練すれば誰でもできる」ようになり、価値が下がることで人件費が減る。ただ逆に、外国語(英語・スペイン語)が喋れるとかそういうスキルが求められてくるかもしれない。
私の予想では、30年後には、審判は激減しているだろうと思う。どうしても人の目で見て判断することはあるし(特に野球は色々ルールが複雑だ)、AIをコントロールする立場としても、1人は審判が必要になると思う。逆に言うと、「2人以上は要らない」という可能性が高い。
4.新しい球種の開発
これはAIというよりかは、シミュレーションの話になる。
野球のボールを「こういう回転で」「こういう速度で」「こういう方向に」投げたら、どのような変化をするかは、コンピュータさえあればすぐにシミュレートできる(スパコンでないとダメかもしれないが)。必要になるのはボールの3次元データと、空気の粘性だけだ。
あとは「こういう回転で」「こういう速度で」「こういう方向に」投げるのには、どういう投げ方をすれば良いのかを、AIがひたすら試していけば良いのだ。
人間の骨格(腕や手)をモデル化し、可動域や速度を定義したうえで、色々投げさせる。ただ、理論上はシンプルだが、投げるまでの要素が多すぎて、なかなか現実的に可能には思えないな。。例えばリリースの瞬間の力のかけ具合とか、指の長さとか、、、。そもそも骨格のモデル化が難しい。
5.AIと野球のまとめ
いずれにせよ、野球の動作を数値化するにあたり、精度の高い映像を豊富に用意することは欠かせない。現状、日本のプロ野球はこの点で優れてはいない。リクエストしたのに、あまりいい映像が無く、そのままの判定になることが多くはないだろうか?そんなものを見て判断しなければいけない審判が可哀想そうだ。
ただ、今後数十年の間に、野球のあり方が変わっていくのは、当然のことだろうし、勝つためには各球団が努力すべきことだ。野球とAIの技術はまだ発達していないが、今できる投資は、球場に高性能カメラを多数設置しデータを蓄積しておくことだ。
6.野球観戦の将来
AIでも何でもないのだが、いつか「VRを利用して自分自身がグラウンドに立っているような観戦」ができるようになると思う。例えば吉田正尚のスイングを色々な角度から間近で見たり、投手の真後ろから投球を見ることもできる。捕手になりきることもできる。リプレイして好きな位置から見直すこともできる。そんな観戦ができれば、いくら払ってもいいと思うのは自分だけだろうか?
これが現実のものとなったとき、実際に球場に足を運ぶ意味が薄くなり、観客はゼロ人になるだろうか?またそれならば、選手たちは日本にひとつだけある専用の球場でひたすら野球をするだけになるだろうか?(1日に6試合あるから、本当は6球場必要。)
ただ、テレビ中継があっても、多くの人が球場に足を運ぶのはどうしてだろうと考えると、それは「応援」や「誰かと過ごす」とかそういう意味がある。VR観戦ができるようになると、残念ながら「リアルでの迫力」や「選手をリアルで見たい」という層は球場に来なくなるが、それでもある程度の客は入るだろう。
一方で、選手たちからすれば、日本にひとつだけある専用球場で野球をした方が移動の負担は少ないし、コンディションは良くなるだろう。移籍しても住環境を変えなくて済む。専用球場が一年中温暖な土地にあれば嬉しいだろうし、ドーム球場だろうから中止になることもほぼない。
珍しく空想ばかりの記事になったが、私にとってこういう空想は「長生きしたい」と思わせてくれるためのエッセンスだ。
「野球とAIの可能性について(2019年5月2日)」への17件のフィードバック